2013年7月7日日曜日

村上春樹の魔力

  今更ですがこの春、村上春樹の新作長編『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が発売されましたね。まあ私は読んでないんですけど…。もっと市場が落ち着いて本屋の平積みが無くなったら読もうかなって。この間本屋でもう書評本が出てるのを見てちょっとげんなりしたのはここだけの話です。

  さて今回は、世間が新作で賑わってる間にいくつか春樹作品を読み返してみたので、、、ちょっと村上春樹作品の魅力について語ってみようと思います。とは言うもののそんなにたくさんは読んでません。特に村上春樹が好きなわけではないのであしからず。ちなみに読んだことがあるのは初期三部作と『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、あとは短篇がいくつかって感じです。見事に初期作品に偏ってますね。

  そんな私が考える村上春樹の魅力ですが、はっきり言ってよくわかんないです(笑)強いて言えば空気感というのでしょうか?文章自体はどことなく翻訳小説チックなところがあって個人的にそこまで好きではないです。読み易いけど…。内容に関してはよく言われてることですが、、、男がいて女と会って酒飲んでセックスしてうんちゃらかんちゃら、、、基本構造はこうですよねえ。深く読み込んでいけば違うのかもしれませんが、村上春樹を買ってる人100人いたら98人くらいは深くなんて読まないでしょうし。(言い過ぎかな?でも普段本なんてまるで読まない人が話題だからって買ってるんだろうな。じゃなきゃあそこまで売れないよね。)そんな春樹作品について面白い評があったのでご紹介。渡辺直己さんという方による村上龍の『五分後の世界』の幻冬舎文庫解説です。長いですが以下引用、、、

  一般に「文学」と呼ばれている作品には、読者とのかかわりにおいて、基本的に二種類のものがあるとおもっている。
  まず決して読者の主体を侵すことのない作品というものがある。読者は、それを読んだ後でみずから変わろうとはせぬし、彼らはむしろ、いっこうに変わりようのない自己の輪郭をそのつど、心地よく確かめるためにその本を好んで手にするのだ。たんに楽しませ、慰め、励まし、教えるだけでなく、それらは、時として驚かせ、混乱させ、おびえさせるかもしれない。だが、そのすべてが結局のところ、読者を安心させることを本質とする作品というものがあり、わたしはこれを「読物」と読んでいる。たとえどれほど悲惨なこと異様なことが描かれていようが、「読物」はたえず、変わらぬことの愉悦とともにある。ちょうど、適度な負荷が筋肉を鍛えるように、その悲惨さ、その異様さ、その驚きおびえは、読者に対して、彼らの主体の既知の輪郭をいっそう強固なものとする恰好の刺激たりうるように調整されてあるからだ。そうした調整ぶりに抜群の手腕を示すという意味で、たとえば村上春樹はたぶん、現代最高の「読物」作家であるはずだが、『ノルウェーの森』や『ねじまき鳥クロニクル』に深く魅了されたあなたはしかし、その後で、いままでとは何かまったく別のことをしようと欲したろうか?

  この解説は続いて「読物」の対極にあるものとして、読者の生の遠近法そのものを変えてしまう力のある作品を「小説」と呼び村上龍は「小説」家だとする。もちろんこれは村上龍作品の解説として書かれたものなのでハルキストからは批判もありそうだが、私的にはなるほどと思った。それにこう考えると世間でやたらと春樹作品が読まれているのも納得できる気がする。

  現代人はみんな自己肯定を欲しているのだ。革命とか戦争で世界を変えられる時代は終わった。民主主義や平和主義は絶望だと思う。倒すべき敵は不特定多数の大衆となり、選挙では根本的な変革は望めない。そして戦争は戦争というだけで否定される。これまで人類が作り上げきた中で、最も転覆させにくい社会システムが出来上がってしまっている。それでも学生運動なんかをやっていた世代はまだ、自分たちの力で何かを変えられると信じていたのかもしれない。そういうのが終わって、私たちの世代は結局世界は変えられないと悟ってしまった。変えられないなら肯定するしかない。ふがいない自分を。やるせない世界を。

  そうした自己肯定感こそが、私が村上春樹の魅力だと言った空気感の正体なのかもしれない。深く読み込まなくても、普段本なんか読まない人にも感じられるように空気感として感じられる自己肯定感。魅力というか魔力的ですよね。春樹作品は不思議と何回も読み返したくなるのもそういう理由?個人的に村上龍のほうが好きだけど龍のほうは何回も読もうとはなかなか思えないもん、疲れちゃうから。

1 件のコメント:

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